鷹は、常に美しい。羽を広げても、おさめても、ぐらりとバランスを崩したように見えても、やはり、「羽を正して」いる。私はこの句を、死を予感したから羽を正したということふうにはとらない。大鷹は常に、死の予感と隣り合わせにいて、だからこそ、常に気高く、羽を正して、美しいのだ。
開成高校俳句部の部誌「紫雁」第9号(2011.9)より。現役中学・高校生とOBの作品、俳句甲子園出場記がおさめられている。以下、現役生の作品からいくつか。
秋草や坂の上下に停留所 今田児雷也
マフラーを枕としたる夜汽車かな 馬場慧
ガレージを一気に開けて雲の峰 青木ともじ
鰯雲給水塔の裏が好き 平井湊
春灯や誰にも見せぬ詩を書きぬ 坂野嘉昭
これが、洋梨を描くときの角度か 山口萌人
マッチ擦る静かな雪に耐へかねて 〃
呼びとめて坂の上なる祭髪 大塚凱
燐寸擦れば虚ろに音す梅雨の闇 永山智郎
白味噌を砂丘のやうに年の暮 片庭浩輔
大鷹の句の作者、山口萌人は、今年の俳句甲子園優勝メンバーの一人。俳句に添えられたエッセイには、小学校時代に訪れた俳句との出会いを書いている。
「一冊の本を買って貰った(中略)一句一句、漫画や挿絵入りで解説されているものだ。物凄い勢いで読み進めて、終わったときに僕が最初に覚えていた句というのは、芭蕉でも一茶でも、子規でも虚子でもなく、<蝶墜ちて大音響の結氷期 富沢赤黄男>であるとか、<しんしんと肺碧きまで海の旅 篠原鳳作>といった、所謂「普通」の花鳥諷詠とは違った句たちだった。俳句はただの古臭いものではないのかもしれない、もしかしたら、そこに自分だけの世界を作り出せるものなのかもしれない、そんなことを考えていた」
その直感が間違ってなかったことを、彼の作品自身が証明している。