回転ドアの中でマスクを外して入る  池田澄子

回転ドアに入ったときの、あの、へんに「みょーん」としたかんじの、時間の伸び方。この句は、回転ドアに入ってから出るまでの、ほんの数秒のあいだのできごとを描写しているわけだけど、つなぎあわされたことばの醸し出すもったり感が、その「みょーん」という時間の伸び方を、妙に体現しているのが面白い。

こういう感覚的なところは、まさに言葉にするのが難しいところで、これで論文を書けといわれても、その根拠を探すのがとても難しい。だからこそ、そういう「えもいわれぬもの」を大切にしたいと思うし、池田さんの俳句には、リズムであるとか書き方であるとかに、そういう「えもいわれぬもの」があるものが多いような気がする。

だから、この句はきっと、「トリビアルなところに着目した」とか「口語が現代生活を体現している」というような点だけで評価されてはいけない。ほかのトリビアルな句や、口語×現代生活の俳句と、なにかが違う。

第四句集『拝復』(ふらんす堂、2011年7月)より。