人形買ふ枯葉のいろの瞳を選び  野口明子

並んでいる人形の中から、枯葉のいろの瞳のものを選んで買った。琥珀のような瞳だろうか。「海」や「空」、「ルビー」や「サファイア」ではなく、「枯葉」。決して、良いものではない「枯葉」という語を選んでいるところに、作者の心持がうかがえる。作者は人形の瞳の奥に、自分のこころのなかにあるさみしさとかむなしさみたいなものを見つけて、人形と心が通い合ったような、そんな気がしたかもしれない。
枯木立の中、一体の人形を抱いて帰ってゆく後ろ姿が、なんとなく印象的で、忘れられない。

第一句集『青黛』(ふらんす堂 2011年11月)より。ほかにも、すっくと立つ凛々しい句が並ぶ。

皆既日食地吹雪ゆるむとき見えし
雪の厩舎岩塩舌形にゑぐれ
舟唄や翔つ青鷺のしづくして
しつとりと朝顔内側に萎む

もうひとつ、「指細くして飾りゆく雛調度」。ほかのものを倒さないように、そっと、そっと、お雛様の道具を並べてゆく気持ちの集中のさせかた。気をつけても、指が実際に細くなるわけではもちろんないけれど、そういう気持ちでやっているというところを、「指細くして」と、感覚でとらえた。