やがて来る者に晩秋の椅子一つ   有馬朗人

これから来るであろう人を待っている椅子が一つ。
「やがて」という言葉の持つ時間の幅に、
椅子と人のそれぞれの孤独な時間が見えてくるようだ。
その人を待っているのは、冷たい地面でも、暖かいベッドでもなく、椅子。
その誠実な椅子のかたちこそが、信じられるものなのかもしれない。
晩秋の切ない空気感が、椅子が一つある景色をよりくっきりと見せている。

『有馬朗人 俳句文庫』(春陽堂書店、1993)より。