いはれなき泪目をして寒一日   松本康男

冬の強い冷たい風に吹かれて、涙が出てくるというのは単なる生理現象だろう。
どうして涙目なのだろう?と、他者を見て思っていたり、他者から思われていたり、
あるいは自分の涙について考えていたりするのかもしれない。
そして、人間にとっては涙目には理由が必要なのだということにも思い至る。
「いはれなき」という唐突な措辞が、その涙目にぐっとクローズアップし、
うるんだ目をよりキラキラと見せているようだ。

『十一月』(牧羊社、1984)より。