さわ先生カニに変身あいに来た  せとひろし

「俳句年鑑」(角川学芸出版)2012年版、高野ムツオ氏の巻頭提言「無名の力」で引用されていた、宮城県東松島市の四歳の男の子の俳句。この句につけくわえることばはなにもないけれど、さわ先生がどうしようもなく失われてしまったことを、深く知らされる一句だ。ほかに、「俳句年鑑」の震災にまつわる文章の中から、震災を詠んだ俳句をいくつか引用する。切実とはなにかを考えている。

草笛よ卒業式は海の中  高橋きよ子
歓声や春夜を破る無事の声  若木ふじを
瓦礫中より完璧な子猫なり  今瀬剛一
歳時記も辞書も流されみな朧  渡部登美子
みちのくの春日の痩せて鹹(しおからき)  渡部誠一郎
見覚えの雛がぽつんと瓦礫山  菊田一平
双子なら同じ死顔桃の花  照井翠
方舟の善民はみな呑まれけり  〃
生きてをり青葉の雫頬に享け  〃