桶の底なまこに骨のない不安  桂信子

句集『草影』(ふらんす堂 2003年)より。

小さい頃、種差海岸でなまこをひろったことがある。結構大きなもので、黒いその生き物は、ぐったりとした様子で私に身を任せていた。なまこは、食べてみると、こりこりと食感はあるものだが、生きているその姿はとても柔らかそうだ。桶に沿ってぐったりとしているその姿に、本当にこの生き物を食べてもいいのか、これは本当にまだ生きているのか、不安になる。これからこれを食べるのかというよりも、調理するのは誰なのだ(自分だとわかっているのだろうけれども)という不安もある。けれどもやはり、一番の不安は、この生き物が本当に生きているのかということがわかりづらいということだろう。