おみやげの鳥籠もつて地上かな  阿部完市

からっぽの鳥籠に「魔女の宅急便」を思い出す。鳥籠に黒猫のぬいぐるみを入れて届けるはずが、途中でぬいぐるみを落としてしまい、空っぽの鳥籠を抱えて地上へと降りるのだ。
お土産に鳥ではなく、鳥籠を持っている。中身ではなく、籠をあえてお土産としている。純粋に鳥を飼っている人にあげるだけかもしれないが、少し歪んだ閉鎖的状態を望むような心情が見える気がする。地上とあえて言うことで、飛行機を使用するほど遠くから来たことがわかる。空の鳥籠をお土産にと、人に会う道を行く姿がほほえましく、素直に微笑んで見ていていいのか、戸惑う。

句集『地動説』(角川書店 平成16年)