墓石に蓬に口笛がとどく  佐藤文香

墓石と蓬を、それぞれ、死と生の象徴としてのみとらえてしまうと浅くなる(もちろん死と生の象徴を対比させているのではある)。墓石のつやつや感と蓬の濁ったもしゃもしゃ感。蓬が生えている墓地の近くを、口笛を吹く人が通りかかった、そんな春のいち光景を思えばいい。蓬のチョイスの意外性が、リアルを生んでいる。
口笛も、人間の本体ではないから、墓石に対する生ってかんじもするし、墓石と同様に、そこにはいないって感じもする。そのへんのほのぼのとしたこころぼそさも、通奏低音。

短歌雑誌「つばさ」2011年11月号、新鋭作品「全景」より。以下、そのほか惹かれた句。

ソメイヨシノ丘の家より子らこぼれ
去る人の振るハンケチに似て鳥は