縄文より胡桃の皺よ降る雪よ  小檜山繁子

縄文の時代からあるものとして、「胡桃の皺」と「降る雪」とを挙げた。まずは、今ここに、胡桃があり、雪が降っている。その景色が、ずんとさかのぼって、縄文の野の胡桃の樹に雪が降る景色とつながる。「皺」まで丁寧に描き、胡桃の質感を出すことで、反対側に雪のふわりとした手触りも浮かび上がる。また、胡桃の皺は脳の襞を思わせもするから、縄文から脈々と受け継がれてきた叡智に思いも至る。

第七句集『坐臥流転』(角川書店、2011年12月)より。食べものを描いた句に、独特のいきいきとした筆致を感じた。以下、惹かれた句を。

明日立春身離れのよきかま煮かな
夏至ゆふべたたみ鰯を火に翳し
詩をなさず朝ゆふべに桃を食べ
青葡萄るゝるゝるゝと詩魂かな
水滴の小さな欠伸春の水
冬至まで南瓜と暮らそ時に撫で
蒸しパンのむむ・むむ・むむむ小六月
駒返る草よわがミトコンドリアよ