猿を押し倒し西暦を教へけり   谷雄介

西暦を教えることの意味を考えるよりも、ここでは、西暦とはさして意味のないこととして捉えたい。
「押し倒し」てまで、コミュニケーションをはかりにくい「猿」に教える、意味のないものとしての「西暦」。
そこから感じられるものは、狂気である。
「を」の多用(しかもないほうが語呂がいい)、この「を」が狂気をより臨場感あるものに。
そしていつしか読者は「猿」となり、「押し倒」されるようなこの強引さで、
この意味のない内容「猿を押し倒し西暦を教へけり」を、作者に「教へ」られている。
句には猿が西暦を理解したかは書かれていない。
猿は疎んだかもしれないし、正座をして聞いたかもしれない。
意味のわからないことを、受け入れられるか否か。
この迫りくる狂気は、われわれに読者としての態度を改めて考えさせるものだと思う。
そしてこの狂気を受け入れる受け入れないに関わらず、ただ作品はある、のだ。

『別冊俳句 俳句生活 一冊まるごと俳句甲子園』(角川学芸出版、2010)より。

つくる6月は、谷雄介さんが登場です。お楽しみに!

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