マウスくらゐの蛤を逃しけり  青山茂根

マウスは、パソコンのマウスだろう。片手で包み込めるくらいの大きさだ。片手で包み込めると言っても、蛤としては大きいのではないか。蛤とは、そんな動きのすばやいものなのだろうか。きっと作者もそう思っていたに違いない。捕まえられると思っていたものに逃げられ、驚きと悔しさと少しの可笑しさで、複雑な気分だ。それでも、カリカリ怒った雰囲気は感じられず、穏やかに見えるのは、蛤の丸さや「けり」と呑気に言っているからだろう。

句集『BABYRON』(ふらんす堂 2011年)より。