雪掻きし道うどん屋に突き当たる  井上じろ

雪掻きされた道をゆけば、うどん屋につきあたる。ただそれだけのことをいった俳句なのに、とっても余韻がある。雪の冷たさと、うどんを茹でる湯気。雪の白と、うどんの白。パスタやラーメンにはない、うどんのシンプルさも、この句を素朴に仕立て上げている隠し味だ。雪を掻いたともいわず、うどんを食べたともいわないことで、この句の中に人がいなくなって、意志のようなものも感じられなくなって、雪の中にぽっかりとうどん屋だけが湯気をたてているような、そんな光景がたちあがってくるのが、ちょっとグッときたりもする。

第一句集『東京松山』(マルコボコム 2011年)より。