春の山屍をうめて空しかり  高浜虚子

ほんとうに空しい。生命力の象徴のような春の山を、葬りの現場としてとらえ直しているところに意外性がある。しかし、屍を蔵しているし、空しいんだけれども、芽吹き、水湧き、花が咲く。その入り混じる生命のダイナミズムを、死にスポットを当てることで描き出している。この句を見つめていると、「かつ消えかつ結びて」という一節が、自然と口をついて出てくる。

ふらんす堂ポケット句集 深見けん二編『高浜虚子句集 遠山』(2012年2月)より。選ばれている句は、全体、穏やかで格のある作品が多いように感じた。これも、選者の俳句観があらわれてのことだろうか。