癌に冒され癌と見る満月ぞ   遠藤若狭男

美しい満月の夜は特に、空に月があることに違和感を覚えるものだ。
この句からは、単純な「癌」との共存を超えたものを感じる。
「癌と見る」とあるが、癌自体は満月を見ないはずだ(いわゆる擬人法)。
作者と癌と読者の満月への思いは少しずつ違っていて、それでもひとつの満月を見上げている。
また、ここには省略があって、「癌(に冒された自分)と見る」とも読める。
癌に冒される前の自分と癌に冒された後の自分のことを、きれいな満月を見るときにふと思うのだ。
「ぞ」に、まだ完全に受け入れきれない力強い悲しみ、すなわち生命力が感じられる。

『去来』(角川学芸出版、2010)より。

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