父母は地に還りわれらはトマト食ぶ  櫂未知子

両親が亡くなったことを「地に還り」と言えるまで、どれほどの時間が必要だっただろう。最近はもう人は骨壺に入るので、地に還るということはなくなってきたのだろうが、様々な命のかえった地から栄養を吸い上げ実ったトマトを私たちは食べているのだ。もしかして、今目の前の人が食べているトマトの片りんに父母の命のかけらがふくまれているかもしれない。それすらも、冷静に受け止められるくらい、日々が過ぎ、時間がたってゆくのだ。

『俳句四季 5月号』(東京四季出版社 平成24年4月20日)より。