金魚らのなかへボタンが落ちてゆく  谷さやん

金魚が泳ぐ水槽の中へ、なにかの拍子でボタンを落としてしまった。ゆらゆら、ひらひらと、水の中を時間をかけて落ちてゆくボタン。異質なものが落ちてきたのをみとめて、ざわめきだつ金魚たち。水の中の動きはゆっくり感じられるから、「落ちる」「落ちにけり」などではなく「落ちてゆく」という措辞が、スローモーション効果を出している。ボタンの色、金魚の色がカラフルなのもいい。「あ」のあとの、鮮やかな一瞬の世界。

「船団」第93号(2012年6月)より。特集「この指とまれ!」では、船団の会務委員がたてた16の初夏の季語のうち、会員がめいめい好きなものをひとつ選んで3句投句した作品が、各会務委員のエッセイとともに掲載されている。谷は金魚を選んだようで、ほかの二句は以下。

金魚鉢の指紋に足がつく夜か
船窓や金魚のやうに星ひかる

船窓の句も好きだ。「金魚のやうに星ひかる」は新鮮な比喩。丸い船窓から見た夜空が、金魚玉の中の世界のようだ。