くらいからがやがや云って上陸した 藤後左右

「スンバワ島軍記」と題された膨大な作品群のうちの一句。かつての第二次世界大戦中に軍医として召集されスンバワ島の野戦病院で従軍した記憶を後にまとめたもので、400句以上の大連作だ。一句だけでは句意のとれないものも多く、俳句というよりも一つの物語として読んだほうがよさそうだが、読み応えはある。

この句は、はじめに上陸するときの句だ。「くらいからがやがや云って」のこの雑然とした雰囲気。どこかの村役場の遠足みたいだ。その呑気な様相が、戦争というものに身を置くものの日常をシニカルに照射している。

第2句集『藤後左右句集』(昭和五十六年)より。昨日、とある勉強会で関悦史さんが藤後左右について発表してくれ、じっくり読む機会を得た。初期の傑作「夏山と熔岩(らば)の色とはわかれけり」「噴火口近くて霧が霧雨が」や、後期の作品でわりに有名な「新樹並びなさい写真撮りますよ」は知っていたが、改めて読んで、それに勝る名作というものは見いだせなかった。しかし、晩年の「べープマットに弱い私は蚊に近いのか」などは、ちょっとほろりとしてしまう味わいがある。