老いに似る風待月に風待つは  櫂未知子

風待月は六月の別名。梅雨のさなか、雨がちで湿度も高くなり、五月のように気持ちよく風が吹かなくなる。かといって、まだ冷房をかけるというほどでもない。なまぬるい空気の中で、すがすがしい風の吹くのを待っているのが、老いに似ているというのだ。

「俳句」(角川学芸出版)2012年8月号、特別作品21句「カムイ」冒頭の一句。正岡子規の「六月を綺麗な風の吹くことよ」という句を思い出した。あの清冽な瞬間を待つこと、それが老いに似ているような気がするというのは、“清冽な瞬間”が次第に遠のいてきている今があるということだ。

「風待月」という季節に、その名のとおり風を待っている、というところも「老い」のイメージへとつながるのだろう。脈々と受け継がれてきた言葉の系脈にしたがうおのれを、佳いも悪くもない、ただかつてとは変化してきているような気がすると捉えている。