シュうショのシュふ、と上五の中だけですでに楽しい韻律だ。
この「主婦」は海にはいなくて、洗濯物を干したりご飯の支度をしたりと、家で家事をしているだろう。
その日常のさまざまな仕事をしている中で、ふっと「海の音」を聞いたのだ。
最初から濁る海の音を聞くと言わず、あえて下五で海の詳細を描き、ワンフレーズに収めないことにより、
狭い言葉の中にとどまらない永遠のような「海」が立ち上がってくる。
さわやかな海ではなく「濁る海」という不穏なものの音を聞かせることにより、
主婦にスリルを与えつつ、一方もうそのスリルすらどうでもよくなるような、圧倒的日常の片鱗を見せる。
『少年』(『花神コレクション 金子兜太』花神社、1995)より。