鏡台の後ろあたりで増えている   小池正博

敢えてなにが増えているかを書かないわざとらしさはあるが、鏡台との組み合わせが不気味さを増強していてよいと思う。私の実家には母の鏡台が何故かふたつあって、ひとつは両親と兄弟の寝室に、ひとつは和室にあった。両方、私の普段の生活にはあまり関係のない部屋で、憧れつつも触れることのない、馴染みのないものだった。常に使用されている部屋ではないから、何かを取りにいったときも薄暗く、しかも鏡であることでこわさを感じていた。
鏡台は部屋の真ん中に置くものではないから壁に寄せられている。その壁とのわずかな隙間に増えている「何か」。正体はわからないけど、明るい気持ちのいいものではないだろう。
先日母に和室の鏡台あげるよって言われ喜んだが、やはり今住んでいる家でも和室に置くだろうし、日当たりのいい場所には置かないだろうなと思う。

句集『水牛の余波』(平成23年 邑書林)より。