靄生みて靄を走れり雪解川 広渡敬雄

靄がかった山の中を流れる雪解川。
雪解川に、この靄は自らが生んだものだという自覚があろうとなかろうと、
そこにはただ靄が立ち込めていて、雪解川は流れつづける。
つかみどころのない靄の中の出来事を描いているのに、
読者に力強く大きな景が感じさせ、躍動感や生命力を見せている。
写生に徹するたしかな眼と、対象への情のバランスが絶妙な作品。

第58回角川俳句賞受賞作品「間取図」(『俳句 11月号』角川学芸出版、2012)より。