雨音の一泊を長旅と思う   宇多喜代子

たった一泊なのに長旅と感じられるような雨の旅。
行楽が叶わなかったり、荷物が多くて濡れてしまったり、困ることもあるが、
掲句からはそんなに嫌なことばかりではなく雨音を楽しんでいるような雰囲気もある。
一泊しかしないのに、長く旅した気分だなんて、お得な感じもするだろう。
それでも、旅先で降る雨を見ながら、家のあたりも降っているかしらと思いを寄せ、
日常から離れてきた思いを強くし、長旅だと感じているのかもしれない。
中七下五の不安定なリズムが、雨だれの様子を伝えている。

「月下」(『俳句 11月号』角川学芸出版、2012)より。