リハビリの顔桔梗の前通る  廣瀬町子

リハビリしている人の歩みは、本当にゆっくりだ。一歩、そしてまた一歩、たしかめるようにゆっくりと進む。そのリハビリの人の顔が桔梗の花の前を通った、というところを切り取った。前を見て体を動かそうとしている真剣な表情が、スローモーションで桔梗の前を通り過ぎてゆく。実際にはこんな風に淡々と詠めるようなさらりとした現場ではないのだけれど、カメラに徹していることで、その歩みのスピードが妙にリアルに感じられる。桔梗の花のしずかな紫が、リハビリの人の快癒を目指す意志を代弁しているかのようだ。

角川学芸出版「俳句」2012年11月号、作品八句「秋の虹」より。作者は、先日、健康問題から自誌の終刊を下した「白露」主宰・廣瀬直人氏の妻。リハビリをしている主体に直人氏が重なった。本復を心から祈っている。