ふと毛虫よろめきてまたすすみゆく  今野志津子

一読そのとおりの句。見ていると、毛虫がふとよろめいたが、すぐに体制を立て直してまた進んでゆく。人間は地面と平行に進んでいけばいいわけだが、毛虫は縦横ななめに柔軟に進んでゆかなければならず、またその進路は草花や塀など不安定で前途多難なみちゆきである。ひらがなの多い表記も、ただ生きているから生きているのだという毛虫のシンプルな生のありかたとよく合っている。愛のある視線が印象的な一句だ。

第一句集『桂花』(角川書店、2012年10月)より。読み進めるうちに心しずかになる端正な作品が並ぶ。

蜂の巣につき刺さりたる蝶の翅
病院のにほひおほきな夏至の星
だれか泣いてゐる白たんぽぽなづな
せつせつとわさびをおろす小暑かな
流れ星トリケラトプスの尾を探せ
蛇を見しところに咲いて杜鵑草
蛇を見ずうたを作らず冬に入る
ひとつ残りし草餅に夜が来る