耳の穴奥まで見えて冬あたたか  広渡敬雄

きっと見られているひとは見られていることに気付いていないだろう。そんな無防備なもの、見てほしくないし、もし自分が見られている側だったら、奥まで見えていることにほっとすればいいのかどうすればいいのかよくわかならない。作者は、たた「あ」と思っただけなのだろう。もしかしたら、その人は普段は耳当てをしているのかもしれない。久々に暖かい日で、耳当てをしなくてもいいくらいだったので見えた耳の穴だったからこそ、新鮮な気持ちになったのだろう。

「子規の眼」(『俳句』2012年12月号)より