ささめゆきスエード靴に浸みゆくは   大野朱香

「スエード靴」を履き街へ出かけているのだろう。こまやかに「ささめゆき」が降る。
平明な内容だが、文体が少し凝っている。
たとえば、スエードの靴に浸みゆく細雪、でも内容は同じだけれども味わいが違ってくるだろう。
掲句の、上五中七の語感のなめらかさが、「ささめゆき」と「スエード」の質感を感じさせ、
空から降る雪が地上に届き、靴に浸み、靴から私に浸み、そして、静かに乾いてゆく、という、
ささやかだけれどたしかなシーンが見えてくる。

「諸家自選五句」(『俳句年鑑 2013年版』角川学芸出版)