月よ遂に吾子にピアノの夢捨てさせ   能村登四郎

「ピアノの夢」とは、ピアノが欲しい、とか、ピアニストになりたい、という将来の夢のこと。
そういう無邪気な夢を吾子に「捨てさせ」たのだ。諦めるよう諭したのか激しく叱ったのか。
「月よ」のあとに静かな溜息が聞こえるようだ。吾子に可哀想なことをしたと懺悔の心がある。
包み込むような月光の下で、未生のピアノの音が響きわたるような余韻がある。

「定本 咀嚼音」(俳句研究編集部編『能村登四郎読本』富士見書房、1990)より。