うつぶせに蝶浮く冬の泉かな  村上鞆彦

「うつぶせに」「浮く」で、いやでも、死んでしまった蝶だとわかる。冬の泉の永遠とも思える冷たい時間の中で、蝶はうつぶせに水面に浮いている。残酷な景色に見えるのは、きっと「うつぶせに」のせい。息ができない苦しさが思い起こされて、とてもつらくなる。

「俳句」(角川学芸出版)2013年1月号、新鋭作家競詠10句「切株の空」より。そのほかの作品からも好きな句をいくつか。

湯豆腐の底だぶだぶの大昆布  相子智恵
荒ら星や蝮めざめて温かし  宇井十閒
披露宴のビデオ反芻して妻は  山口優夢
全国の線量計の御慶かな  関悦史
腹筋をつよくせり凍蜂の床  小川楓子
綿虫や文字の少なき本を購ひ  冨田拓也