鈴生りの蜜柑が仏壇を隠す  長田群青

蜜柑が仏壇に供えてあるのだろう。鈴生りの枝ごと摘んできたか貰ってきたか。蜜柑が仏壇を隠してしまうように見えるのだから、仏壇のサイズもそれなりに小さいとわかるし、蜜柑のたわわに実っているさまも想像できる。口語のぶっきらぼうな言い方が、ありのままの部屋の様子の描写であることを保証しているようにみえる。

第二句集『押し手沢』(花神社・2012年12月)より。

いま点けて来し燈籠のはるかかな
松に覚め花に親しむ山の風
郭公や明日のこと書くチョーク音
看護学校踊り場の鳥兜
赤子まだ胎内のいろ十二月
蝙蝠や仄と浮きたる膝小僧
熊笹の縁の乳いろ冬に入る
髪固く編んで歯科医へ夏休
遠嶺みな襞を忘れて桃の花
古巣抱く大きな欅一周忌
巫女二人涼風に火を一つずつ
新聞の文字もろともに毛虫焼く

端正なつくりながら、しずかなあたたかさを湛えた句群。