X線検査機通過す読初の『檸檬』と鍵  榮猿丸

飛行機に搭乗するための検査を詠んだ句だ。鞄をあずけ、トレイにポケットから携帯電話や鍵を出し、ゲートを通る。荷物はちょっと遅れてX線検査機を通過してくるが、その隣にある画面を見ると、鞄の中に入れているもののかたちまできれいに見えて、ギョッとする。
とはいえ、鞄の中の文庫本を、敢えて鍵と並列させたというのは不自然だから、きっとこの人の機内への持ち込み品は、梶井基次郎の『檸檬』と鍵、程度だったのだろう。本は検査に通す必要がないけれど、なんとなくついでにトレイに出したくなる心情は理解できる気がする。検査が終わったら、またもとのように、ポケットに文庫を差し、鍵を突っ込んで、歩いてゆくのだ。
ごちゃごちゃとメカニックに述べている手ごたえに加えて、檸檬という素材が、新年の気分をさわやかに伝えてくれる。

週刊俳句298号(2013年1月6日)新年詠2013より。