春はまだ寒いよ川のせせらぎも  今井杏太郎

「春はまだ寒いよ」は口語で話し言葉のように書かれているが、しかしリアルではない。「春だね、でもまだ寒いよ」とか「春なのにまだ寒いよ」なら自然。でもこの句は「春はまだ寒いよ」。春が主格になっているので、ちょっと不思議な味わいが出てくるのだきっと。冷たい風に吹かれながら、川のほとりでせせらぎを聞き、水面にあそぶ光に春をみとめているのだろう。

句集『風の吹くころ』(ふらんす堂・2009年)冒頭の一句。句集の世界へするりと読者を導入するさりげなさを備えている。