我が頭より朧きざしぬ不死身とは  文挟夫佐恵

春の朧が生まれる場所として我が頭を想定するとき、認知症になって記憶がおぼろげになってゆくという老年の現実がそこへ重なってゆく。しかし、逆に認知症を「朧がきざしているのだ」ととらえることができるなら、それは何か人ならぬ存在へ近づいていける思想のようにも思える。「不死身とは」の問いは宙づりのままだが、朧の中でこだまするこの人間の積年の問いは、朧を介して私のこころにも届く。

『白駒』(角川学芸出版・2012年11月)より。