「大島の自然動物園に新聞記者として招待さる。帰途」と前書あり。あまり見たことのない珍しい洋蘭が社長室に飾られていたのだろう。雫しているのはおそらく、蘭の手入れとして霧吹で水をかけてやったから。社長の部屋に通されて、なんとなく手持無沙汰で部屋を見回すと、珍しい蘭が目に留まる。その蘭を見ていたのが社長にわかって「これは○○蘭というんだよ~わしはこれが気に入ってなあ」などと嬉しがられるのだが、何蘭だったかすぐに忘れてしまった。それをそのまま「なんとか蘭」と適当に句にしてしまう適当さが、この社長へ払う敬意の度合いをそのまま表しているところが愉快である。
古沢太穂編『栗林一石路句集』(新日本出版社・1978年)こういう句もすでに昭和初頭に作られていたのだと知ることは、俳句における“新しさ”を見極めるうえでとても大切なはず。