おでん食ふよヘッドライトを横浴びに  篠原鳳作

ガード下などの屋台のおでんだろう。車が通るたび、屋台から外にはみだした体にヘッドライトがあたっては消える。「横浴びに」という表現も丁寧だ。ヘッドライトの眩しさと、場末のささくれた雰囲気とを演出するのに一役買っている。そして「おでん食ふよ」の「よ」。きちんと575におさめるのであれば、この「よ」はまったく余計なわけだが、これがあることで、なんとなくはすにかまえてハードボイルドを気取っている男の気分がよく伝わってくるのである。「ヘッドライトに照らされてよ、おでんなんか食っちゃってよ……へへ……」といったところだろうか。

『篠原鳳作全句文集』(沖積舎・平成13年)より。同時発表作に「おでん食ふよ轟くガード頭の上に」あり。「しんしんと肺碧きまで海のたび」「炎帝につかへてメロン作りかな」などといった南国風景を詠んだ俳句が有名な鳳作。今回、全句文集を読んでみて、たしかにそのへんの句が彼の特徴だと思うが、一方でこのガード下のおでんのような当時の現代風景もしっかり詠んでいて、決して都会を知らない人ではないのだという思いを新たにした。