底冷は京みちのくは底知れず  高野ムツオ

「底冷といえば京都ですよね。でも、みちのくは“底知れず”なんですよ」
こういわれたら、沈黙するよりほかない。「底冷」という季語に対して「底知れず」という近似の言葉を呼び出してきてウィットを効かせつつ、母郷みちのくへの深い愛を差し出している。京都は季語の正統故郷かもしれない、けれどみちのくには端正な体系にはおさまりきらない闇があるのだ……そんな中心と辺境との対置も意図されたものだろう。

「俳句」(角川学芸出版)2013年3月号、特別作品「寒の華」より。地を這い蠢くエネルギーに満ちた50句、必読。

揺れてこそ此の世の大地去年今年
死者二万餅は焼かれて膨れ出す
寒濤や夢にまで手が伸びて来る
星雲は宇宙のとぐろ春を待つ
冬眠のままの死もあり漣す