2011年6,7月 村上鞆彦×西村麒麟×生駒大祐×神野紗希×江渡華子×野口る理
神野 先日、ふらんす堂から、第二回の田中裕明賞は、該当者なしというお知らせがでました。応募は五作、一番、賞に近かったのが杉山久子さんの『鳥と歩く』、一点差で、杉原祐之さん『先つぽへ』(いずれも、ふらんす堂)でした。四人の各選者が、一席から三席までをまず決めて、持ち寄って討議するというかたちで、選考が行われたようです。
村上 宇井十間さんの句集もありましたよね。
神野 選考委員の中で、小川軽舟さんは、宇井さんを一番に推していましたね。
西村 えっ、そうなの?
神野 私は、小川さんは杉山さんを推すのかなと、作風からして勝手に思っていたんですけど、近いからこそ、気になるところがあるのかもしれません。「ムラがある」という指摘でした。
江渡 うーん。
神野 第一回の田中裕明賞では、斉木直哉さんという方が、私家版の句集で投稿されてました。出版社を通して出版されたものでなくても、句集という認定で選考してもらえるんだ、という驚きがありまして。それでいいなら、毎年、誰でも出せる。
野口 うん。だって、生駒くん、今年やりかけてたもんね。
生駒 はい。
西村 でも、それって、希望のある話だね。
村上 募集要項を読んだ限りでは、「2011年1月1日から2011年12月31日までに刊行された句集」って書いてたね。
生駒 僕は、小澤實賞とかではなくて、これが田中裕明賞だという時点で、田中さんに『山信』という墨書の初期句集があるので、私家版でも絶対OKだろう、っていうのを、ずっと主張してたんですけどね。裕明賞、っていう名を冠するならば。
野口 『山信』は伝説的ですから。
西村 でも、一般的に、それでいいって言っちゃうと、みんなますます、出版社で句集を出さなくなっちゃうんじゃない?
江渡 そうかなあ・・・その賞のために句集出すわけじゃないでしょ?
西村 でも、賞があるってことで、句集出版に踏み切るってことはあるんじゃないかな。
野口 出すからには狙いたい、みたいな?
西村 出したら、絶対応募したいし。どうせだったら、賞の応募のはじめっから、私家版でもいいって言えばいいのに。
神野 句集って、何が句集で、どこから句集じゃないのかって、考えてみれば、よく分からないな、って思いました、今回の件で。
西村 公に、そういうのもOKってなると、きっと応募、すごく増えるよね。
神野 たぶんね。だから、そういう風に解釈していいのかな。
西村 高校生たち、みんな、コピーして送ればいいよ。
野口 何句以上、とかいう規定はないですもんね。
生駒 もちろん、五十句でもかまわないけど、それだったら採らないよ、っていう、暗黙の了解はあると思いますけどね。
野口 選考過程を読むと、四ッ谷さんが、斉木さんのことを、かなり推してましたね。
西村 推したいだけの作品なら、私家版でもいいってことでしょう。
野口 あとは、選考過程読むと、岸本さんが、ちょいちょいふざけてるなっていう(笑)
江渡 そうだね(笑)
村上 (選考過程が書かれた『第一回田中裕明賞』(ふらんす堂、2011)を見ながら)斉木さんの句、これ、もともと一字あいてるの?
神野 気になりますか?
村上 いや、他意はないです。
野口 受賞記念の句会でも斉木さんの句が見られましたね。
神野 今年もやるらしいよ。候補者の方と。みなさん、田中裕明さんの句はどうですか。私は大好きなので、「田中裕明賞」って名前がついてるだけで、もう満足です。選考委員の四名(石田郷子、小川軽舟、岸本尚毅、四ッ谷龍)も・・・
村上 いいと思います。
神野 田中さんと同世代で。
西村 僕は、その四人に認められたら嬉しいな。
神野 村上さん、田中裕明さんの句は好きですか。
村上 はい、一流の俳人として認めてます。「雪舟は多く残らず秋蛍」。それから、すごく残っているのは「水涸れて天才少女とはかなし」。ちょうどこの前、葵祭の前日に京都に行って、京大のあたりを散歩してきたんですよ。で、「大学も葵祭のきのふけふ」って句を思い出して、まさにこんな感じなのかなって。ちょっと、祭でざわめいている感じ。見たことある?
西村 ないです。機会があったら見たいです。僕が田中さんの句に出会ったのは、若手の中で田中裕明さんがブームになったあとなんだよね。勉強会やシンポジウムで取り上げられて、みんながあんまり好きっていうから、読みたくないって時期もあったんだよね。
神野 逆に。
西村 『先生から手紙』『夜の客人』あたりがとても面白かったけど、『山信』あたりは、ちょっと難しいという感じがしました。僕としては、爽波のほうが好みですね。田中さんは、古典をたたせるから、やっぱりちょっと難解なところもでてくる。神野さんは、『先生から手紙』が好きだったよね。
神野 そうそう。松山の古本屋さんで、あまりの分厚さと、そのわりに安かったことに驚いて、ちょうど句集を読みあさっていた時期だったので、ひょいと買ったのがきっかけでした。「団栗やなりたきものに象使ひ」。団栗と象のサイズ感。
村上 『先生から手紙』は、はじめは別のタイトルが考えられてたんですよ。
江渡 え、どういうことですか?
村上 僕が前につとめていた北溟社で『現代俳句最前線』っていう本を企画したときに、田中裕明さんが原稿をくれて、そこに、「次出す句集は『生身魂』です」っていうことが書いてあった、それが結局は『先生から手紙』になったんですね。
一同 へーえ!(驚)
神野 知らなかった・・・。新人賞というと、俳人協会の賞が有名ですが、最近は、若手の中で、俳人協会に入っていない人の占める割合も、かなり多くなっている印象があります。そういうときに、どこまで、俳人協会新人賞が、新人賞として意味を持つのか。ということを鑑みても、田中裕明賞の果たすべき役割は、大きいと思います。第三回の対象になる期間に、今年は結構句集が出るみたいで。御中虫さんの句集はもちろんですが、これから山口優夢くんも出すようですし、慶応系の、前北かおるさんや、中本真人さんも出されるようです。関さんも出すんじゃなかったっけ?
生駒 いや、でも、屋根の修理費で全部とんじゃったって。
西村 そんなところにも、震災の影響が・・・。
神野 とにかく、いい句集が読みたいですね。それが楽しみです。
(次回は、西村麒麟の推薦句をよみあいます)