「三つ星座」は「みつぼしざ」と読み、オリオン座のことを意味する。冬の代表的な星座で中心に三つの恒星を持ち、周辺には一等星であるベテルギウスやリゲルなどが点在している。ギリシア神話ではこの星座は、ポセイドンの息子でボイオティア出身の巨人の猟師が星になったものと言い伝えられているとのことである。
木枯らしの吹きすさぶ蕭条たる冬の夜の景観。夜の時間帯であることが吹く風の寒さとその厳しさをより一層強く感じさせる。その冬の夜空にオリオンの全容が「倒れざま」の状態で懸かっているとのことである。
オリオンは、主に日が暮れた後、東の空からまるで砂時計が横倒しになったような形状で現れ、時間が経過するにつれて徐々に垂直の状態へと移行してゆき、やがて完全な縦の形状を示すようになる。そして、その後また少しづつ横倒しの状態へと向かいながら西の方角へと消えてゆく。掲句では、オリオンが冬の夜空に「倒れざま」となって見えているわけであるから、日が暮れてから数時間の間か、それとも星座が完全に縦の状態になった後の様子を捉えたものということになるはずである。
あと、掲句が、単なる浪漫性のみに終始した句と異なるのは、「凩」という厳しい寒さをそのまま想起させる季語の働きのみならず、「倒れざまにも」という修辞による作用の故でもあろう。この「倒れざまにも」という形容によって、読み手にオリオンが常ならぬ「倒れざま」の状態であることに対する驚きと星の世の営みのスケールの大きさを率直に感じさせるところがある。また、ここに先のギリシア神話の巨人の話を思い出してみてもいいであろう。
掲句は昭和2年の作であるが、これより以前の大正15年に既に同様のモチーフの句が
風立ちて星消え失せし枯れ木かな
という形で見られる。
ただ、同じような内容でありながら、この以前の句の方は、冬の星の光が風によって容易く消し去られてしまっているのに対し、その後に成された掲句における星の光は「倒れざま」でありながらも、吹きつける木枯らしにけっしてそのまま消え入ってしまうことなく確かで意志的な力強い輝きを晶々と発し続けている。ここには、まさに一人の青年の胸中に秘められた不屈の魂そのものが深く刻み込まれているといえるはずである。
芝不器男は、明治36年(1903)愛媛県生まれ。大正14年(1925)吉岡禅寺洞の「天の川」に投句。昭和5年(1930)27歳で逝去。昭和9年(1934)横山白虹編『不器男句集』。