少年に暗き海ある蛍かな  角川春樹

夜の海は、空との境目がわからない。波の音がするから、そこに海があるのだと思う。少年期の孤独というものは、美しいものとして描かれやすいが、本当にそうなのだろうか。混沌とした闇に近く、先が見えないものなのではないだろうか。そこには恐怖と不安があり、寄せては返し、安定ということがない。少年の心だけが海に似ているわけではないが、海の中で「暗い海」という表情が一番近いものは、少年の心なのかもしれない。

 

蛍の光が希望のように見えるが、この句の場合、希望の光ではない。蛍は川に生息する生き物だから、少年の海に光はもたされないのだ。

 

句集『飢餓海峡』(思潮社 2007年)より。