2011年7月25日

玄関から世界に続く道がない

飼い主御中虫が鬱だ。部屋中の電気を真っ暗にして、布団にもぐりこんで、めそめそ泣いている。これはよくあることで、私はもう慣れている。鬱の時は虫の弟が私の世話をしてくれるので、餌の心配はないが、やはり同じ部屋で鬱鬱とされるのはうっとうしい。

「何がそんなに悲しいのさ」
声をかけてみる。
 
「…何もかも。何もかも悲しい。もう死ぬ」
「あのさ、死ぬとか軽率に言うのはどうかと思うよ。人によっては不愉快に思うよ」
「不愉快に思えばいいじゃん。別に好かれようなんて思ってないし、てゆかあたしのこと好きな人なんかいるわけないし」
「あのさあ…」
「ほっといてよ。死んだら周りに迷惑だっつんだったら一応生きるわよ。プロテイン飲んで寝てたらいいんでしょ、そしたら死なない程度に生きてられるわよ」
「とりあえず、電気つけない?暗いと考えも暗くなるよ。虫はとくにそういう傾向が強いよ」
「いやよ。電気なんかつけない。あたしは暗い女だから電気なんかつけなくていいの!もうみんな嫌いっうわーーーん!!!」

私はちょっと途方に暮れる。時間が解決することもあるが、刃物なんかさがしだしたらコトだ。以前私のペット用鋏で足をぐっさり切った前科がある。油断はできない。
 
「あのさ虫、散歩行きたいな。散歩つれてってよ」
「散歩?もう夜だよ」
虫はちょっと興味を示した。いいかんじだ。
 
「夜の散歩もたまにはいいじゃん。神社行こうよ、神社。あそこ木が生い茂ってていいかんじだよ」
「うーん…神社かあ」
乗り気になってきた。
私は自分で散歩用リードを引きずり出して、催促した。
虫もようやくその気になったようだ。
 
「じゃ、1時間だけね」
そして玄関を開けた瞬間、虫はこの世の終わりみたいな声を出して叫んだ…
 
「世界に続く道がないーーーーーーーーっ!!!」

そしていきなりつっぷして号泣しはじめたのだ。
なにがなんだかわからない。
私にはどうしようもなかった。
何事かとやってきた弟氏にも意味不明のようだった。
しかし虫は号泣していた、この世の終わりのように。
虫は泣きながらまたベッドに戻って寝た。

私は精神を病んだことがない。だから彼らの目に何が映っているのかわからない。
でも虫の目にいつか、玄関から世界へと続く道が見えるようにと祈らずにはおれなかった。

  

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