青柿の落ちにはとりを驚かす  伊藤伊那男

滑稽な句である。縁側で庭の柿を見ていたのだろう。青柿が落ちた音に、鶏は声をあげ、ばさばさと飛べない翼を広げる。作者はハハハと笑ったものの、ふと気がついて笑いを止める。落ちたのが青柿だったからだ。まだ小さいものの、固い音をして落ちた。青柿もときどき落ちるものだが、食べられたものではないので、できれば樹上で熟れてほしい。若いものが、途中で命を失うと、言い表しようのない不安におそわれる。
 
俳句は短いけれど、余韻が残ることがある。この句にも余韻があり、笑った後の作者の表情まで見えてくる気がする。
 
句集『知命なほ』(角川書店 2009年)より。