ある日、友人の詩人・佐藤雄一さんから、一通のメールがきました。4月29日、恵比寿公園で、チャリティーサイファーを企画しているとのこと(詳細HP)。同時開催で句会を企画してくれないかという佐藤さんの呼び掛けにより、チャリティーサイファーの一環として、同日夜、席題による句会を行いました。場所は、新宿ぼるが。
神野紗希・野口る理が待つ二階の座敷席に、まず、鴇田智哉登場。時を待たず谷雄介、しばらくして相子智恵が到着。恵比寿でのサイファーに参加していた藤田哲史・生駒大祐両名が、少し遅れてやって来て、全員集合。
神野 今日はよろしくお願いします。
(生駒くん、キャベツをぱくぱく食べる)
野口 生駒くん、それしか食べられないもんね。
一同 えっ、なんで?
生駒 今、ダイエット中で。野菜しか食べない。
相子 すごーい!
谷 ねぎぬたとか頼みましょう。
神野 とんぶりとじゅんさいも。
生駒 いや、僕は大丈夫です。
神野 魚も食べないようにしてるの?
生駒 そうです。
鴇田 ちょっとは食べたほうがいいよ?
生駒 ウインナーだけは食べていいことにしてます。スープにするとおいしいんで。
野口 今、どんくらいきてる?
生駒 ちょっとは痩せましたね。たぶん、3キロくらい痩せたんじゃないすか。
神野 どんくらいおとしたいの?
生駒 いま4キロ落としたくて、その後、5キロ落としたいです。
相子 なんでその、段階はなんなの?(笑)
生駒 まず煮物で痩せて、そのあと、温野菜で痩せる。
谷 はー…9キロはすごいな…
相子 途中で切り替えるのね(笑)
生駒 4キロ痩せて、プラン切り替えです。携帯のパケットプランみたいな。なので、温野菜にかける、カロリー低いドレッシング募集してます。よろしくお願いします。
谷 生駒くん、のみが足りないよ!
生駒 あ、頼みます。ええっと、ジンジャーエールで。あ、やっぱりウーロン茶で。
一同 カロリー気にした!(笑)
席題は「読む」「書く」「聞く」「集まる」「届く」「思う」「帰る」の7つ。大上段に構えるよりも、こうした題に向かい合うほうが、おのずと、今、俳句をつくること、遠くの人を思うことの、心の芯が見える句ができるのでは、という思いから選びました。そして、作られた句が、次の一覧です。
浅蜊より逃げ出す砂を汝も聞くか
特選:藤田 並選:谷・生駒・相子
藤田 浅蜊の貝を、ステンレスボウルに、塩水を入れておいて、浅蜊の管から砂が出ていくってところを…すいません、みんな分かってると思います。「汝も聞くか」っていう最後の飛躍がうまくいってます。はまったのか、はまったんだ!っていうところ。
谷 逃げ出す砂っていうのは好きだったんですけど、逆に「汝も聞くか」は言い過ぎかもしんない、とちょっと思った。でも、「逃げ出す砂」ってのはいいかな、と。
生駒 逆に僕は、「逃げだす砂」ってのが、擬人化してるじゃないですか。それがあんまり好きではない…
谷 あれ、全員…
生駒 「出ていく」ではちょっとあれなんで、うまいこと処理してほしかった。でも、「聞く」っていう席題によって、「汝も聞くか」っていうのが生まれたっていうのが、僕はよかったです。砂って水の中だとゆっくり落ちるでしょ。だから、コツリっていう瞬間が見えて、たぶん聞こえてないんだけど、聞こえてるって判断したところが、「汝も聞くか」で飛躍していて、いいと思いました。
相子 浅蜊の砂出しのことを「逃げ出す砂」と表現したところが、私はすごい面白いなと思って。そのかそけき音を汝も聞いてるっていう、かそけき汝への思いってのもいいなあと思いました。
藤田 呼びかけっていうのはどうですか。最後の「か」をとることもできますよね。
相子 あったほうがいいような気がします。砂の音を、自分で聞いてて、あなたも聞いてるかなっていう風に、問いかけなのか自問なのか分からないですけど、なんかそこが味を出してるような気がする。
神野 「か」を抜くと、一緒にいるみたいですよね。
相子 浅蜊って、結構暗くしないと砂吐かないんですよ。だから、夜とかに、寝ながら聞いてるような感じが、私はしました。
神野 これはどなたの句でしょう。
野口 る理です。
空の雲雀が帰ってこないそれでも書く
特選:谷 並選:鴇田・藤田・相子
神野 これ、披講のときに、「そらのくも・すずめがかえってこない」って読んだ方(鴇田・谷・藤田)と、「そらのひばりがかえってこない」と読んだ方(相子)がいます。
谷 僕、特選でいただいたんですけど、言われるとこれ、ヒバリなんですよね。でも、僕はこの、「すずめ」と読んだときのぶつぶつ感というか、余白感が好きでとってたんですけど、「そらのひばりがかえってこない」って続けちゃうと、「それでも書く」の「それでも」っていうのが、思い切りが、心が入りすぎて、なんかヤだかな、と。でも、作者はヒバリと書いたんだろうと思いますね。
鴇田 僕も「すずめ」で読みました。
相子 えええー!(驚)
野口 私は「ひばり」で読みました。
相子 私も。
鴇田 僕もね、無季の句でとっちゃったんですよ。スズメで。なんか、なんだろう、苦し紛れ感もあって、ちょっとしたおかしさを醸し出してるなって思ったんですよね。なんとなく、スズメって、舌切雀とか思い出すし、言っちゃって、ってことでしょ?そのへんのおかしさがある。
谷 これ、ヒバリだと、とるかなあ…やっぱりとるかな。
鴇田 だから、内容的には、ヒバリだと、できてるんだけど、詩ですでにやられてるかな。
藤田 そうですね、そうですね、そうですね。
谷 どうなの?
藤田 「すずめ」で読んだんですね。そのほうがいいかなって。
谷 残念ながら、そっちのほうがいいよね(笑)
藤田 スズメだと、無季になるんで、それで。
神野 季語じゃないほうが、句にとって良い?
藤田 無季というか、超季というか。なんかしらの、すごい災害があって、不毛の土地になってしまった、スズメもいなくなってしまった、みたいな。そういう現代詩を感じる。それでも書くっていう。むしろ、そういう感じで、一行詩の感じで書いた人なのかなって。
神野 松山で、雪雀(ゆきすずめ)っていうお酒があるよね。
谷 そう、CMが超エロい!女の子が、真っ白なベッドシーツの上で、真っ白なキャミソールドレス着て、ごろごろ転がって、最後に「雪雀」!って…
一同 あはははは(笑)
谷 あの女の子会いたいんですけど…
神野 NHKの「俳句王国」の収録やってたころ、前日の酒席で、よく「雪雀」が出てたんですけど、集まってる俳人の方たちは、ついつい「ひばり」って読んじゃうんですよね。
一同 ああー、たしかに。
相子 私はヒバリでとったんですけど(笑)ヒバリって、高く揚がっちゃって、人が飼うような鳥ではないので、帰ってこないのは当たり前なんだけど、その遠さ?その遠さと、「それでも書く」っていうのが、いいなあと思って。スズメだと、飼ってる感じがあるから、ちかしい感じがでるかもしれない。私は、その遠さがいいような気がしたけど。詩の王道っぽいっていわれちゃうと、遠いほうがいいのかもしれないけど、でも、ヒバリがいいような気がする。
谷 すいません、読み方が分からなくって(笑)
神野 ありがとうございます。紗希の句でした。ヒバリのつもりだったんですけど…
谷 まさかのヒバリ。
神野 いや、まさかのスズメだったんで(笑)考えてみます。
ぜんまいに雲は帰らず雲の国
並選:相子・鴇田・神野・野口
野口 ぜんまい「に」雲が帰らないっていう言い方が、ぜんまいが雲に帰っていかないっていうイメージのほうが私はでちゃったので、ぜんまいのほうに雲が帰っていくんだっていうのが面白かったのと…「雲の国」っていう終わり方はどうですか?
鴇田 僕は、「雲の国」でダメ押し的に言ったところが、いいかなと。ぜんまいってなんか、結構原始的な感じがするし、それに大きいでしょ?それで雲とも渡り合えるような感じがする。綿のもやもやした感じも、雲と馴染むような感じがあるんで、渦と。最後にダメ押しで「雲の国」と持って来たところで納得したというか。
相子 意味は分からないっちゃわからないんですけど、その「雲の国」のダメ押しのところが面白いなと思って。ぜんまいのふわふわした感じと、「雲は帰らず」って、だんだんずらしていく感じが面白かったなと思います。
神野 言ってることは、ぜんまいと雲はかかわらない、ってことを言ってるわけなんですけど、それを言うために、ここまで装飾をできる、その力技がよかった。
野口 理屈を考えると、「雲の国に雲が帰らない」ってことなんだったら…
生駒 「ず」で切れてるんじゃないですか。「雲帰らざる雲の国」だったら、雲の国に帰らないってことになるけど、これだと、ぜんまいに帰らないってことじゃないですか。
神野 ぜんまいのところに、雲は戻ってこない。雲の国に、雲は行ってる。
野口 じゃ、ぜんまいがホームでもないのに、ぜんまいに帰るって把握が、ちょっと変だな、と…
神野 そうそう、そこがいい。
野口 あ、そこがいいってこと(笑)
神野 雲たちは、ぜんまいなんてもともと関係なくて、雲の国がただある。
野口 「帰る」っていう単語だと、一回はぜんまいのところに居たってことにならない?
神野 ぜんまいの上のほうに、雲がいっぺん居たこともあったんだけど、気付いてたのはぜんまいのほうだけ、みたいな。
生駒 てことは、読みとしては、「ぜんまいに雲は帰らず雲の国へ…」っていうことでいいんですか。
神野 そうだね。
鴇田 僕は、雲が、全体にあるような。雲の国には、雲の薄いところと濃いところがあって、一回濃い方へ雲がいっちゃって、ぜんまいがあるみたいなイメージ。
谷 この会話を、上から撮って、あとで冷静に見直したら、相当アブナイ人たちですね(笑)
一同 あはははは(笑)
谷 みんな、雲の国についてすげー語るみたいな。いや、雲の国は別にあるんだ、みたいな。
相子 あやしい宗教みたいな(笑)
谷 だんだん、俳句を読もうとすると、アブナイ感じになってくる。雲の国には、濃いところと薄いところがあって…
一同 アブナイ(笑)
藤田 僕の句です。
神野 これは作者的にはどうなの?
藤田 鴇田さんの解釈が。雲の国に、濃いところと薄いところがあって…。
凧の尾が読める形になつてゐる
特選:野口・生駒 並選:藤田
野口 面白いじゃないですか!普通、なんて書いてあるかってところにおとしちゃうと思うんですけど、「の」とか。そういう風に落とさずに、なんて書いてあるんだろうなー、っていうふうに、ふくらます部分がこっちにできるのがいい。
神野 私的には「ゐ」だったな。
生駒 「読める」という題が成功してる例だなと。たとえば、「凧の尾が文字の形になつてゐる」だと、る理さんが言ったみたいに、ダメで、「読める形」っていうのが、文字にすら断定しないっていうか。「読める」って単語の多義性みたいなものも感じさせて、とても雰囲気のいい句だと思いました。
藤田 読めないのかもしれないなって。「読める形になつてゐる」ってのは、読めそうだなあ、っていうくらいの。そこをついてきたっていう。凧の糸っていうのは…
相子 二本くらいあるよね。
神野 そうそう、こうなって、こうなってる…こうあって…
相子 そうそうそうそう。
谷 これ、録音だと、全然分かんない(笑)
神野 ここが、こうでこう…
谷 僕は、いま生駒くんの話を聞いて面白いと思ったんですけど、けっこうコンパクトに面白さがわかっちゃうと、僕は、ああ、面白いって思って、それでとらないかな。もうちょっと、ぐじゃぐじゃした面白さのほうに、いってしまうかな。でも、生駒くんの話聞いたら、とればよかったとは思います。
鴇田 智哉の句です。
谷 これ、鴇田さんの匂いがしますね!ぷんぷんにしますね!
相聞の桜うぐひを俎に
特選:相子 並選:神野・野口
神野 女性陣がとってます。
相子 「相聞の」で切れるのか、つながるのか分からないですけど…桜うぐいって、ピンクの模様が、ポンポンポンポンって出てくるような、華やかな感じがして。相聞っていうのを、「聞く」でよく持ってきたと思うし、最後に「俎」で締めたのも、なんか春らしくて、艶があるという。
野口 私も、桜うぐいの、調べというか、音がいいなあと思いました。
神野 きれいだよね。これって、相聞はどういう意味でとりました?
相子 相聞歌の恋の気分があるのかな。
神野 「相聞」で軽く切れてる?
相子 私は軽く切れたかなって思って。「桜うぐひを俎に」って。私は軽い切れで読みました。
野口 私は続けて読んじゃったんですけど、「相聞の桜うぐひ」だとちょっと付いてますかね…
神野 その、切れてるのか、切れてないのかどっちだろ、っていう揺れを楽しめばいいのかな。
相子 そうかもしれません。
野口 ほーらよ、って感じがよかったです。俎に。
神野 俎って、残酷なものの象徴って感じもしますよね。それを相聞と組み合わせた。「うぐひ」の平仮名も、いいですよね、なんだろう、やわらかで。
生駒 大祐です。
神野 これ、切れてるの?
生駒 発想は、つながって読むほうだったんですけど、句にしてみると、切れてもいいのかなって。「や」ってすると、ちょっと厭なんで、「の」くらいで。
集荷せる佐川の人や春惜しむ
特選:鴇田 並選:神野
鴇田 佐川とか、宅配便の人の風景とか車とかって、あの制服の感じとか、季節はないんだけど、なんかもう身についてるっていうか、定着した二本の風景ですよね。それを「春惜しむ」でもってきたところが、うまくきてるなと思いました。ただ、一個気になったのは、よく結社でやってるといわれることは「佐川の人ってだれ?」ってことなんですよね。
谷 うーん、ですよね。
鴇田 佐川急便とか、ヤマト便とか、言わないと分かんないよとは言われるから。それはやっぱり、どこかで気にしておいたほうがいい、みんなが「佐川の人」を分かるわけじゃないから。それはどうしたもんかなってのはちょっとある。
神野 どうしたもんだと思ってるんですか?
鴇田 自分だったら、やっぱりね、分かるようにする。とは思う。この句をもし作るなら。
神野 私も、「佐川の人」っていうのは、時代が変わると伝わらないんだろうとは思ったんですけど、でも佐川急便ってのもなんだし。「佐川の人」っていったとき、クロネコヤマトがANAだとしたら、日通がJALで…
相子・谷 あはははは(笑)
神野 佐川は…
谷 スカイマーク?
神野 クロネコヤマト的なブランド力を感じないところが…見た目も…
谷 あの青白縞の制服…
神野 でも、制服の見た目は、「春惜しむ」に合う。
鴇田 そういう意味では、ナマモノっぽい言葉…幅はあるけど。
神野 今だから面白いのかも。
鴇田 ヤマトでなく。
神野 ヤマトでなく、日通でなく、佐川の人の悲しみ、みたいな。だから、惜しむ。
鴇田 そういうおかしみはあったと思う。
谷 僕です。最後に、短冊の時点で、ヤマトって書いてたのを消して、佐川にしたっていう(笑)
神野 ヤマトだととらなかったね。
相子 一番じゃないほうがいいね。
神野 ヤマトはなんか、TOKIOがCMやってて、その…
鴇田 正しい感じ。
谷 俳句やってると、一番のものは応援しなくなるってところありますよね。
思ふたび人とほくなる落花かな
並選:生駒・野口
生駒 ちょっと俳句ズレしすぎてる感じはするんですけど、考えるたびに人が遠くなる気がするってことですよね。それを、「落花かな」で俳句におとしこんでる。テクニックというか、型にはまってるかんじはするんですけど、内容が好きでした。
藤田 やはり、遠距離恋愛ですか。
生駒 ですかって、俺に聞かれても困るけど…
谷 え、生駒くんって、遠距離恋愛してんの?
生駒 あ、はい。
野口 隣の人のことはあんまり考えないけど、いないから思うっていうのはあるだろなって気がして。
相子 相子です。俳句ズレしてますね(笑)
谷 遠距離恋愛ですか。
神野 落花はどうですか?
相子 つきすぎかもしれないね。
谷 「思ふたび人とほくなるとろろ汁」ですね。困ったときのとろろ汁。
一同 (失笑)
鴇田 困ったときのとろろ汁なんだ?
生駒 とろろ汁だけで取る人がいるっていう…?
谷 あんまり共感を得てないね…。
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以後、点の入った句について批評して、十時半の閉店と同時に解散。チャリティーサイファー連動企画ということもあり、句会費として集めた金額の中から、福島県にふるさと納税をしました。帰り道、20代5人で、しめのラーメンを食べに。ダイエット中の生駒くんは、麺に野菜を練りこんだ、べジラーメンなるものを頼んでいました。再告知すると、低カロリーのドレッシングレシピ、募集中です。
集まって、書いて、読んで、届いて、思って、聞いて、そして帰る。端的にまとめると、そんな夜でした。