現代の俳句からすんごい頑張って十句選んでみたりけり

1993.1.10発行

講談社学術文庫 平井照敏『現代の俳句』

もっとも愛読してきた俳句の本はなんですか?

僕の場合は『現代の俳句』かなと。健吉さんの『現代俳句』の方が有名だけど、僕は平井照敏さんの方の『現代の俳句』のが好きです。俳句を始めたばかりの頃は高知に居まして、俳句の友達も居ないですし、世の中にどんな俳句があるのかは勝手に学ぶ必要がありました。

好きな俳句の本はたくさんあるけれど、読み返した数でいくと『現代の俳句』がダントツです。

①文庫なので持ち運びが便利

②とにかく俳句だけがたくさん載っている。

③ざっくりと俳句史が学べる

という理由で愛読してきました。鑑賞本ではなく、俳句だけがツラツラ載っている本って案外少ないんですよね。

えー、正月にですね、こるを最初から最後まで読み返してみました。それで好きな句を50句紹介してみようと丸付けてやってみたんですが、これが案外面白くない。選ばざるを得ない句があり過ぎて、普通に名句を50句並べただけとなってしまいました。30、20句と絞ると少し面白くなり、15句、うーん、10句でいいや、と二重丸を付けてみると、やっと僕の好みに並んでくれたので、それを紹介してみたいと思います。皆さんも是非やってみてください。

大空にのび傾ける冬木かな
高浜虚子

大きくにゅーっとしていて好きです。平井さんの選によってだいたいの虚子の有名句は入っていますので、時間が無いけど心を落ち着かせたい時は『現代の俳句』の虚子の句をツーッと読みます。丸ノ内線の中で読む事が多いです。

酔うてこほろぎと寝てゐたよ
種田山頭火

山頭火より放哉の方が厳しいところまで自分を追い込んだのかもしれませんが、実作で行くと僕は山頭火派です。牧水の歌、山頭火の句はとにかくリズムが水のように気持ちが良く、いい気分になります。放哉ならこの句、蟋蟀と寝ていた、とかに直すかな、僕なら、酔うてこほろぎを食べてゐたよ、あ、だめ、ウエ。

外套の裏は緋なりき明治の雪
山口青邨

今、若い人で大の青邨ファンと名乗る人は少ないような気がします、というか会った事ない。僕、青邨の俳句って好きなんですよ、良く合います。青邨もまたリズムが抜群に気持ち良い。例えば好きな句に〈沈みゆく海月みづいろとなりて消ゆ〉〈蟷螂の斧をしづかにしづかに振る〉〈寒鯉のかたまりをればあたたかさう〉とか、大好きです。でもなんというか一番キュンとくるのは明治の雪の句かなぁ。

山上憶良を鹿の顔に見き
後藤夜半

夜半良いですよ、ほんと。滝の句以外も是非読んでください。この句なんか可愛いじゃないですか、山上憶良ってどんな顔か知らないけど、そんなのは別に良いんですよ。僕は夜半に関しては平井さんの選がちょっと不満でですね、〈金魚玉天神祭映りそむ〉が無いのはワザとなのかとか、〈難波橋春の夕日に染りつつ〉〈又の名のゆうれい草と遊びけり〉は僕の大好きな句なのになぜ入ってないんだと、少しだけプンスカしております。

葛城の山懐に寝釈迦かな
阿波野青畝

おー!!青畝、大好きです。虚子以外で好きな作家は、うーん、青畝でしょ、立子でしょ、それに瓜人と…、ってな感じでいつも頭の方に浮かぶほど好きです。平井さんの選はだいたいの有名句は入っていて〈鮟鱇のよだれの先がとまりけり〉〈浮いてこい浮いてお尻を向けにけり〉あたりもちゃんとあり、〈蝮捕ものやはらかにものをいふ〉や〈元日の鶴大股にすすみけり〉と僕が好きな句も入っていて嬉しいのですが、大好きな〈けふの月長いすすきを活けにけり〉〈しろしろと畠の中の梅一枝〉〈梅雨の人パチンコ盤の裏に居る〉が無いのが寂しい。大好きな句なのになぁ。結局一句を選ぶなら葛城の句を。なんだか大きく丸くて良い。波郷の満月のようだ、という有名な評もまた良い。

蚯蚓鳴く六波羅蜜寺しんのやみ
川端茅舎

松本たかしと川端茅舎、僕はどっも好きなんですが、『現代の俳句』から十句しか選べないのなら、うーむ、茅舎を選ぶかな。たかしの20句と茅舎の20句なら、たかしを選びます。10句なら、うーむ、迷います。5句対決なら、茅舎、迷いません。1句対決なら、迷いつつ、茅舎にしました。こう言う、誰からも頼まれていない作業が楽しい、というか幸せです。ぜんまいの句と迷うけれど、こっちかな。とても不思議な空気が流れているような感じが良い。ちなみに新婚旅行で行きました、六波羅蜜寺。ちなみに久留島くんと奈々ちゃんと四人でした、あぁ楽しかった。

泣くことも柿剥くことも下手なりけり
橋閒石

最高のなりけりなりけり。泣けるなりけりなりけり。いやー、カン石、素晴らしい作家ですが、『現代の俳句』では読める作品が少なくやや不満足。〈虫飼うて昼間も夢を見ていたり〉〈銀河系のとある酒場のヒヤシンス〉〈分厚きを湯呑と云うて麦の秋〉等が読みたくて、結局全句集を読み返す事になります。それでもこの句は一読たまらなくなりけり。

百日紅ごくごく水を呑むばかり
石田波郷

昔から好きなこの句。水がエビアンとかなんか良い水では決してないというところが良い。たまに水道の蛇口から水をごくごく飲む事があります。妻は気付いてないけど、この句を思い出して気分を味わってるんです。ちなみに美味しくはないですよ、我が家の水道水。あと、わりと神経質なので家でしかやりません。

白魚やなみだが紙に落ちし音
宇佐美魚目

ぽてり。いやー、たまりませんな。最近出た『魚目句集』もたまらなく面白いですね。これ読んでる皆様全員買ってくださいまし。〈大魚籠の如き晩年秋をねむり〉〈その写真麦藁帽子顎に紐〉〈木の好きな老人にして初がつを〉とか素晴らしい句は『魚目句集』で楽しむとして『現代の俳句』の中ではこの句。ぽてり。

蟷螂のひらひら飛べる峠かな
岸本尚毅

ひらひらひらひら。あ、最後まで来ちゃった。『現代の俳句』の中では岸本さんの句は第二句集の『舜』までしか読めません。なので僕の好きな〈広がつて薄きところや蟻の道〉〈実朝の如くに若し磯遊〉や〈ある年の子規忌の雨に虚子が立つ〉〈寒雀夕日に飛んで光りけり〉も『現代の俳句』には載っていません。『現代の俳句』だけでは岸本さんの魅力は三割ぐらいしか伝わらないのではないかなぁ。ま、全部読まないと結局駄目という、そういう事ですな。

どうでしょう。うん、長いですねー、指が痛いです。『現代の俳句』に入門して何度も何度も読み返し、だんだんと、あの人が入っていない、この句が抜けている、と考えるのはとても楽しい事です。『現代の俳句』には子規、青々、秋をや爽波や加賀は入っていないし、素逝や零と言った伝説の俳人も抜けているし、最近だと池田澄子さんや櫂未知子さんにとか、亡くなってしまったけど八田木枯さんとかの作品も読めない。皆さん、それぞれのノートに『現代の俳句2』ても作っていくと楽しいと思いますよ。

じゃ

ばーい