おがたまがいっぱい

2016.9.10 書肆山田刊行
四ツ谷龍句集『夢想の大地におがたまの花が降る』より。

季何さんと飲んだ時、いつも元気そうに見えるのに、歌集読んだらあちこち弱ってるって書いてあるもんだからびっくりしちゃった、というような事を言うと、季何さんはニコニコしながら「それはね、麒麟くん、元気な時しか来ないもの」と。

あ、そうか!と当たり前のことに驚いてしまいました。友達とお酒を飲んだり月を見たりする、当たり前のような時間は、とても貴重で、当然永遠ではない。

と、後日しみじみする。

飲み屋で話題に出ていたので最近出たばかりの、四ツ谷龍さん『夢想の大地におがたまの花が降る』をやります。音にこだわった結果、笑ってしまうような面白い句となった句がたくさんあり、僕が選んだのはその辺りの句が多いと思います。普通の句集では満足出来なくなってきた方に特にオススメです。

ちゃんこ鍋詩もたましいも煮えとるか

大昔、師から「頑張っていますか?」と言われて「ぼ、ぼちぼち頑張っています」と答えてしまい、「ぼちぼちじゃなく、頑張って下さい」と言われたことがある。「ぐつぐつに煮えてます!」と答えれば良かった。

書物みな身をひそめいる春の地震

ぎっしりとある大切な書物。

虫聴けば我は大昔の人なり

大昔男ありけり。

ポケットから何かはみ出て枯野人

ぺろんと、変なものが。

毒の酒飲んでふたりのひなまつり

これ好きな句です。関係ないけど谷崎の『少年』を思い出した。毒にはどこか美があり、そして美は怖い。

なななんとなんばんぎせるなんせんす

覚えてしまう句。なななんとの後に「!」が見えるよう。ナンバンギセルは面白い植物、写真を見てみて下さい、確かにこんな句の感じです。

念仏踊り猫のみゃーみゃー念仏も

空也上人像みたいに、「みゃーみゃー」が猫の形になる姿を想像すると可愛い。

祭の朝長いトマトをてのひらに

てろんとした。茄子や胡瓜では面白くない。

カブトガニ三匹がっしり重なり合う

これもまた桃園の誓い。

ヌルハチぬるぬるぬくぬくぬばたまのぬ

その第14子にドルゴン。

雲に昼寝アンモナイトを枕とし

昼寝イズビューティフル。

ろっこつをこっせつアンナ・カレーニナ

せっかくのろっこつ骨折。

虫たちの音に色付けていく絵筆

虫の音色に熊手筆。

おまえは何と愚かなのだと言われて地虫出る

ごめんなちゃいと地虫ぞろぞろ。

糸電話そっちの空の色は赤

糸電話の白のイメージで、赤が非現実に赤い。

万両や墓ぼそぼそと息をして

墓石ぼそぼそ。万両があざやか。

マンボウは斜めになったり立ったりす

立てマンボウ、斜めマンボウ。

こつこつと上がった星の落ちにけり

シーシュポス、でもないけど。

おがたまは花失せて枝震えだす

喪失のさみしさか、再生の喜びか。

たっぷり味わえる句集です。

じゃ

ばーい