アワアワあわのせいほかな第6話「旅塵を払ふパスポート無いけれど」

(『阿波野青畝全句集』花神社、1999)

『旅塵を払ふ』を読む

ふー、お盆休みも終わってまた忙しい東京生活が始まるのね(今19日なんです)、さらば尾道、俺は東京でやる事があるのさ!

ビーっ!

ん?あれっ改札が開かない・・・、しょうがねえな、と駅員さんに切符を見せると・・・。

駅員さん「これ、昨日のッスよ」

・・・、え、うそん、・・・だめ?

駅員さん「駄目」

あぁそうですか、タハハ、特急券はどこで買ったらええですか?へへ、7000円?タダみたいなもんやねー、タハハ

アハハのタハハ、・・・、うおぉぉ~い!、昨日買うとき、明日の新幹線のくださいって言ったじゃんかー、明日の16時ですね、って言いながら切符渡したじゃんかよお!おお!?ぐえ~っ!!おのれ○○の駅員さんめ、おのれ~!(確認しなかった僕が悪い)

と心の中で叫びながら(小市民きりんは現実世界で叫んだりはしないのだ)、僕は無言のまま駅の売店で大量のお酒を買いました、ドロッドロに酔っ払う覚悟でお酒を買いました、畜生め、明日じゃねぇ。大切なのは今日じゃ!

寄らば美女以外斬る、と鬼の表情をして荒れている時・・・、あっ痛っ!?鞄の底に何か角ばったものが・・・

せ、青畝先生っ?

そこにはM上さんがくださった阿波野青畝全句集が(デカイので鞄に入れると角があたって痛い)・・・、青畝翁、僕が間違ってました、悲しみのどん底にこそ滑稽があるのですよね。

・・・半分ホントで半分妄想、みなさん切符買ったらちゃんと日付をチェックしようね、こんな腐った気持ちの時こそ青畝です、悲しみを笑いましょう、さ、読むぞ、7000円ぐらい、7000円ぐらいどうって事ないんじゃい!

という事で第6句集『旅塵を払ふ』を読みましょう、この句集は昭和52年刊行でちょうど800句の句集です、有名な『甲子園』の次の句集ですね、あとがきに、

題をいろいろ考えたが(これを考えることは楽しいことであった)あちこち旅をしていたために句の生まれたことでもあると思って「旅塵を払ふ」に定めたのである。

とあるだけに青畝翁うろうろしています、それだけに句数は多いけれど読んでいてとても楽しかったです、僕はパスポートも持っていないけれど、楽しかったのであります、そんじゃ、出発!

手毬の娘寝し頃月の美しく

手毬の娘というのが可愛い、東京なんかに行かずに清楚に育って欲しい

若死の母のかるたの世をおもふ

永遠に若くて美しい母といのは普通は絶対に叶わないだけにどこか憧れてしまう、あ、ごめん母さん、好きよ、また東京バナナ買って帰るかんね。

パン屋の娘気安く薔薇を呉れにけり

好きになっちゃう

消息に代へてと若き鮎を呉れ

好きになっちゃう、って違うか

円空微笑仏に蠅とまり

のどかさと蠅はよく合います

雷鳥の足あと雪に浅くなし

浅くないのと深いのはちょいと違った印象があります、深かりき、とかなら感動が薄れる気がしませんか?

夏炉あり屏風うごかしつつ掃除

飾っていないリアルな生活がよく見えます

よべ螢見し門川や歯を磨く

贅沢ですね、こういうのがほんとの贅沢

風速計目がまはるなり山開

見なけりゃいいのに

うごかざる虚子座像あり百舌鳥鳴くとも

それぐらいじゃ動かないぜ、見たから詠んだだけなんでしょうが、それで十分可笑しい。

ドライブやかぞへられざる女郎花

このドライブやが動くのならば以後俳諧を語らず、と言ったとか言わなかったとか、攻めの上五だなぁ。

一本の強く立ちゐて木の葉髪

生き残ったやつはハンパないのさ

とりあへず小便したり紅の花

このとりあえず感がたまらん

草笛や巫女を姉とし吹き習ふ

綺麗なお姉さんは大好きです、そんな甘酸っぱい少年期があっても良かったのに

どぶにほふ苦情申さず地蔵盆

かなり苦情を言いたい感じが伝わってくる、言えばいいのに

丘つづく大和の国の良夜かな

良夜って素敵な季題だけに使い方が難しいですね、丘つづく、とはなんとも明るく優しい。

くちづけとおもひ吸はるる熟柿かな

甘いキッスは塾柿の味

こけふまぬようにと仮名で秋の寺

そのままんまなんだけど、これはそのまま持ってくると良い、というセンスが非凡なんです、青畝翁は。

ワイパーも今は必死の吹雪かな

ワイパーに対して初めて可愛いと思った、いつもサンキュ、ワイパー。

草矢飛べ淡き夕の道の児に

飛べがたまらん気持ちになる、吹く、とかでは台無し。

滝やさしからず女も弱からず

ツンツンした君も好きさ、あ、やっぱり優しい子が良い。

さきほどと変りなき富士芋嵐

とわざわざ詠むあたりが変わっていますね

着ぶくれて俳句の鬼と任じけり

俳句の鬼可愛いなー

ビラ配るサンタクロース吾に触る

別に恋の始まりではない

胸の火の消えざるかぎり老の春

そうこなくっちゃ、青畝ほどの積極的老の春がありますか?

日向ぼこ長髪の徒はどこにも居る

最近の奴らはろくなもんじゃねぇって言いながらイカとか食べて呟くのもまた老人の特権。

端居しぬ少し写経にくたびれて

本音とはかく美しい、くたびれてって・・・。

壁にぶつかりたる背やおでん酒

飲む時は背もたれが大事よ

月下美人魂こめてふるへけり

魂こめて、の本気度が素晴らしい

老の歯の一本強し薬食

生き残ったやつが強いのさ

冷し牛野良の鴉を乗せゐたり

わざわざ野良のって表記したところが良いですね、一句全体不思議と涼しい

年を言ひ笑ひのたねの老の春

あくまで武器となる老の春、楽しんでますね~

ほらっ!ほら!腐った気持ちもやわらいでいきますね、7000円無駄にした事なんて忘れてしまいますね、7000円あれば何本飲めるとか考えもしないですね(しつこい)、こんな俳句が作れるようになると良いなぁ、クスクスっと笑わすような俳句が。

どんな人生でもグースカ寝てれば明日が来る、たいした明日じゃなくても来る、それでまぁ良いかと思わせてくれるような俳句が好きさ。