西へ出づれば男塾

山田真砂年『西へ出づれば』(花神社、2005)

僕が若い子達の仲間に入れない理由の一つが、カラオケ嫌いにあるかもしれない、だって恥ずかしいではないか、こう、みんなの前で楽しそうに歌を歌うなんて。しかし俳人は歌が好きだ、もう二次会なんか大体カラオケである。
若かりし頃(なんちゃつて)「僕は、ああゆうところは、ほんとうに、嫌いだ」と最高に不機嫌な顔でカラオケに行きたくない意思を彼女に伝えたら、泣かれてしまった事がある、どうもカラオケぐらいやれなきゃだめなのだ・・・。フゥ~♪とか言えないとモテないのだ。ダンスの一つも出来ねばならんのだ、もう、ほんと、嫌な時代、あぁ生きにくい(なんちゃつて)。

敢えて言おうではないか、男は照れではないか?フゥ~♪とか言ってマラカスとか振ってちゃいかんのではないか?

男は照れ、よーし、ここまで書いて、すでにスピカ三人娘に何書いてんのよ、と後で説教をされるのではないかと不安になってきたぜ、けれどももう直せないさ、結構書いたもん、パソコン無いと文章直すの大変なのさ(校正の人も大変さ)、じゃ、本題に入るぜベイベ

今回紹介するのは未来図の山田真砂年さんの第一句集『西へ出づれば』です、真砂年さんの俳句の世界において重要なキーワードは「照れ」と「ハードボイルド」、軟派な俳句は無しだぜ、さぁ長くなったけど出発!とにかく出発!

春はあけぼの蒲団のなかにおぼれをり

男はグータラであるべし

花散るを枝にまたがり見てをりぬ

男はまたがる

春二番手持ちぶさたの手が揺れる

男は手持ちぶさた

恋猫を前に恋猫しどろもどろ

男はいつもしどろもどろ

荒東風や古書街にゐてあてもなし

男はいつも寂しい

炎昼やするめのごとく部屋にゐる

ヒモであるべし

牛と来てそのまま牛と泳ぎたり

牛だけが俺を癒してくれるのさ

牛糞をよけそこねたる暑さかな

糞もダイナミックに踏め

西安を西へ出づれば残暑かな

気が付くと西安に居たぜ(まさか)

ウイグルの美女はけだるし蠅叩

よお、と裕次郎ばりに声をかけるぜ

言ひ訳は多弁となりて空也の忌

優しい嘘は嘘じゃない

ぬつと来て冬の挨拶かはしけり

少し離れたところから、よっ、と手をあげる

雪道の汚れはじめて村に入る

婆さん、宿はどっちだ?と聞く旅人の姿


遠吠えにつきまとはれて枯木山

犬かもしくは狼か

三寒四温嘘がばれずにゐてつらし

男は優しくなきゃいけね

いたしかたなき裏切りや海市見ゆ

愛故に

肩凝りやおぼろのなかで揉みほぐす

縁側で「ちょっと、お前も、揉んでやろうか、いや、俺もどうして、なかなかうまいもんだぜ」とか夫婦で言ってみたい

万緑や秘仏てふ闇のぞきたる

万緑がかえって神秘的でやや不気味、真砂年さんはあちらこちらに旅をされるのでかなりの秘仏のはず

汗の顔力抜くとき笑ひとなる

ふっという男の笑顔がたまらんはず

ゼリーすくつて修道院へ行きたいと

ゼリーのぷるんとした感じが妙におかしい

戻り梅雨地図をはづれた町にゐて

真砂年さんは旅人なので、とんでもない場所のはず

起き抜けに朝の光を掴みたり

「さて、行くか」
朝からカッコいい

一本のビールで写楽二枚見る

男はこれぐらいの余裕がないと

どぢやう汁悪事企むこと楽し

ウッシッシ

採つて来て結局喰はぬ茸かな

昔茸取りの名人という人が、食えそうか食えないかの瀬戸際の茸が楽しい、と言っていたのを思い出した。

熟柿吸ふ座右の銘は持たざりき

簡単に一日一善とか言う人は信用ならない

のつそりと僧が傘さす秋時雨

時雨じゃ全然駄目、秋時雨が美しい

秋の虹欠伸の涙もしよつぱくて

「欠伸が出らぁな」と別れ際に少し泣いてみたい

秋天の花嫁小さく舌を出しぬ

内緒で友達だけにする合図、結婚しちゃった、みたいな、あぁ僕も、幸せになってみたい。

年越蕎麦のびきつてしまふ一人かな

ふふっと笑う男の寂しさは良い

雪の日の映画に雪の降つてをり

一人で、しかも夜に古い映画を観に行っているとしたら素敵

開け放つ漁師の家や雛飾る

可愛い女の子の父はだいたい怖い

貝寄風や転勤などに憧れて

「海が見えるところも良いな、なぁおい、聞いてんのかい」とか手酌で飲みながら洗い物をしている妻に話かける、なんてのに憧れる、ちなみに転勤は嫌

金魚買ひさみしき夜となりにけり

今年急に父が小さな鯉を買って来て、あぁ寂しいんだなと思ってしまった。

ほうたるのあのあたりから地雷原

皮肉なほどきれいな蛍がたくさん

南国の奇妙な果実星飛べり

よくわからなくてもとりあえず食べてみる

桃食うてしばし猫背にをりにけり

うーん、おいし、と語りそうな背中

バイク駆り紅葉全線突破せり

バイクでかくてハードボイルド

酔ひをれば欲は少なし天の川

塩が欲しいぜ、とか

着ぶくれて臍のあたりで鳴る小銭

小銭がとっても良い味

抑へても肩が笑へり黄水仙

くくくと肩が笑い、その後にはあははと高らかに笑う

枯野来て男ごころを取りもどす

革靴履いてハードボイルド

中年のヴィタミン好きやブロッコリー

真砂年さんの中年俳句の世界はとても明るい


壁の蚊を深呼吸して吹きとばす

ぶふ~っ!

音たてて蝉落ちにけり母校とは

母校を訪ねると、道中の自販機や喫茶店なんかが妙に懐かしい

りんりんと鶴渡り来て山の夢

りんりんがとても神秘的、日本昔話の中の鶴のようにめでたい

甘納豆食べて自信の揺らぐ冬

と詠みつつも頭の中は次の旅の事で一杯

さぁ読んでみました、この句集は今は手に入りにくいので、できるだけたくさん引用させていただきました、どうでしょ?男の味が出ている俳句ばかりですね、次に真砂年さんが俳人協会新人賞を受賞された時の記事を引用しますと

真砂年語録に、「俳句はハードボイルド」がある。男の美学にこだわる彼はチャンドラーの愛読者であり、その非情の裏にひそむ優しさや、感情に由来していよう。
一方「俳句はちゃらんぽらんでいい」という。

ね?この句集にぴったりじゃないですか(ちゃらんぽらんは照れです)、カッコいいですね。

僕は真砂年さんのカラオケ嫌いなところと(二次会がカラオケの場合は蕎麦屋へと逃げる)、びっくりするぐらい照れ屋なところが好きで、お会いすると嬉しくなって何かと周辺をうろうろしてしまう。

ばったり飲み屋でお会いして一緒に飲んでいる時に、お店に置いていた俳句総合誌の目次に真砂年さんの名前を見つけて(僕が行く飲み屋には俳句の本が置いてます)、あれ、何について書かれたんですか?と読もうとすると、真砂年さんは、ぱっと本を取り上げて、いや、面白くないから読まなくて良いよ、と見せてくださらない。

男はそれぐらいシャイが良い