『裏島』をとてもきついコンディションで読んでみる

石川美南 歌集『裏島』(本阿弥書店、2011.9)

9月21日夜の9時半、今ここは新宿です、台風の影響で小田急線がようやく再開したのですが、ものすごい人、内気でシャイと有名な僕にはとても乗れそうにありません、地上に出て百貨店を背もたれにしながらこの文章を書いています、あぁお腹が空いたなぁ、あ、A子から奪ったちんすこうがある、ムシャムシャ、うん、なかなかうまい、うまいけれどもさぁ。あぁ寂しいなぁ、そういえば○さん句会なはずだ、邪魔してみよう

台風で小田急線がうふふふふ

って送ったら返信がない、ちぇっ。

ベロベロベロっ!
ゆあゆよーん!

あぁ~あ、一人遊びも退屈だなぁ、ちぇ
あ、そうだ、今朝読んでた歌集の紹介をしよう、はっきり言って今わたくし麒麟は気力体力ともにもやし二本分ぐらいだけど、なんかこう、モヤモヤやれそうな、良い感じです。

あ、メール返ってきた

「ばかねぇ」

ぬぬぬぬぬー!

さて、紹介します歌集、出るのを楽しみにしてた石川美南さんの『裏島』、石川さんは二冊同時に歌集を出されて、もう一冊はまた今度、『裏島』読むよー、あぁもう疲労で倒れそう、歌だけをばんばん紹介します、石川さん、嘘じゃなく今新宿の路上で書いてますので、荒い紹介ですが、許してください、その代わり、魂こめて・・・ツッコミ、ちがう、紹介します!

頬づえをついて私はラクロスやセパタクローを軽々こなす

嘘(以後嘘はフィクションの意味でね)なんだけど、その嘘がすごくセンスがある、ラクロスとセパタクローだもん

広報部長キレつつ眠たげなキャッチコピーに赤字を入れつ

中年の怒りがキレつつの言葉の軽さでちょっとコミカル

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もうね、絶対嘘なんだけど、嘘はセンスが必要で、石川さんはその辺が天才的なんだと思う

(うぐっ、路上で座ってると足首が痛い)

鼻うたや夢の類(たぐひ)も記録して完璧な社史編纂室よ

嘘(フィクションって言うより楽しい)なんだけど、社史編纂室なんて言うので愉快、ここに何を持ってくるかがセンスなんだと思う

補助付きの自転車たちが駆ける夕 河田小鳥店ほのぼのと照る

ね、補助付きでただの自転車よりぐっとリアルになってるんですよ

(足首が痛い、伸びをしよう、傘を杖のように使って・・・)

「二号室の吉村ですが増えすぎた茸のおすそわけに来ました」

えー、困る

「二号室の吉村ですがご近所の視線怖いと思ひませんか」

えー、また来たんスカ?

「二号室の吉村ですがさつき見た悪夢の話聞いてください」

ひぃ、帰ってください

病弱な妻を持ちたる関さんがひつそりと鳥籠を買ふ夜

関さんは俳句の関さんとは関係がないけど、「小鳥来て姉と名乗りぬ飼ひにけり   関悦史」を思い出したらちょっと楽しい

(痛いっ足!ふん)

「この辺りだけなのかしら、ご近所もみんな普通にやつてゐるわよ」

普通が一番怖いってリアルさがある

鳩の目に映る朝日のおそろしさ 薬を飲め、と友人は言ふ

全然関係ない話して良い?僕、昔精神科で「女が出来れば治る」と言われた事がある、22歳だったなぁ

コーヒーが欲しい、下さい、マスターが筆ペンで書きなぐるメニューの

このなんとも言えない狂気がたまりません

煙草の火消して女は立ち上がりきりきりと詩を叫び始めつ

きりきりですよ、きりきり、ここにきりきりを持ってこれる才能にきりきり

「お仕事中すみませんけど馬の耳のツボに関する本ありますか」

ない

何だみんな私から離れたとこで勝手に恋とか育みをつて

と最近よく思う、ほんと、何だみんな

野球部の領土を奪え校庭を借り切つてやる練習試合

このね、ただの練習試合の風景なのに、石川さんが詠むと「侵略」を感じる

ディフェンスの弱いところを突破され電光石火の舌打ちをした

ちって聞こえるみたい、このスピード感じがたまらん

(腰が冷たい、スースーする、自分で揉まないと・・・)

風の真似が得意な祖父は流氷や花の写真を広げてみせる

風の真似が絶妙で、不思議な祖父がの姿が見える

トナカイの仮装の父に驚きて祖母はワインをひつくり返す

ほれー、わー、ガシャン、と嘘みたいなひっくり返りぶりが見えて明るい

父と祖母が二時間かけて議論する「最も華麗な凧の揚げ方」

そんなわけはなーい

アメ横は縦に伸びつつ太刀魚や胡桃どしどし売りつけてくる

太刀魚、胡桃とリアルに持ってくるところがさすが、そしてどしどしも素晴らしい

参列者それぞれに寄せて返す波<悲しむ><はしやぐ><悼む><とまどふ>

最後のとまどふ、がとっても良い、うまく説明できないけど絶妙なんだよなぁ。

フィクションの世界を描く場合、下手をすると、あぁ嘘ね、ふーん、こういうあれね、となってしまう場合がある、が、石川さんはもうほんと、失敗しない、サーカスの人が綱渡りから絶対落ちないのと同じように失敗しない、それでいて、ちゃんと危なげな魅力を見せてくれる。
あぁもっと、紹介したいのだけれど、僕はもう体力の限界であります。
自分で何を書いているのかも正直朦朧としています。

僕は、今日、帰れるのかな、今新宿駅、22時44分。