2013年7月8日

WHA twin-term
elongates what winter melon
Gates’ Windows

意訳:(直訳すれば「世界俳句協会の対の会期はどの冬瓜を長くさせるのか。ゲイツのウィンドウズ」となるが文字遊びの部分も同時に訳すことは不可能)

冬瓜は、日本では平安時代から栽培されているが、「冬瓜」という中国由来の名前からして、原産地のインド・東南アジア方面から中国経由で日本に伝わったと思われる。七月から八月にかけて収穫される野菜であるため、夏または秋の季語とされている(歳時記による)。しかし、冬瓜という名称が示す通り、古代中国のような野菜栽培が落葉植物主体である国では、冬場食べられる野菜が少なかったため、長期保存がきく冬瓜は重宝され、夏・秋の収穫期から食用に供される冬場まで貯蔵されるのが常であった。つまり、冬に食べる瓜という事が名前の由来であり、名前通り冬の季語に分類してもよい気がする。

ちなみに、冬瓜の「とうがん」という読みは「とうが(とうか)」が時代とともに訛って転じたもので、「瓜」の音読みは基本的には「か(が)」である。七月三日に採り上げた「西瓜」の「瓜」と同じである。

英語のwinter melonは季語ではない。冬瓜は、非常に暖かい地方なら一年中収穫できるからであって、日本ではその条件を満たすのが晩夏・初秋だというだけの話だ。つまり、無理やり季節感を求めるにしても、収穫からすれば通季なので不可能、中国由来の名称からすれば冬季と見做す他ない。

掲句は意味性のない、純粋な文字遊びの句である。「whatwintermelongates」という文字列を、「wha/twin/term/elongates」「what/winter/melon/gates」と語彙の切れ目を変えながら二度続け、マイクロソフト創立者のGates(ゲイツ)氏から、twinやwinterと韻を踏むWindows(ウィンドウズ)を引き出している。

文字遊びの効果を日本語にすれば「銭湯・眼帯・脳・線・冬瓜・滞納・都民税」のようなものだが、全く違った意味での再創作になるため、作者には翻訳不能である。日本で、掲句を和訳できるとすれば、ジェイムズ・ジョイスの作品で翻訳不能と言われた『フィネガンズ・ウェイク』を独自の造語を用いて翻訳した柳瀬尚紀くらいか。彼は、英語による言葉遊びを、造語を含めた超絶技巧で和訳するのが得意で、至難なルイス・キャロルの翻訳なども手掛けている。

掲句の原語が日本語であったら、批判に曝されるであろう。写生どころか意味性すらない言葉遊びの句は日本俳壇の99.9%以上、日本詩壇の99.9%以上に相手にされない。歴史的に見れば、談林俳諧では似たような句はあることにはあったが、談林調の句自体が現代の実作者たちに軽蔑されている(悲しいことだ)。しかし、西洋詩では、このような純粋な言葉遊びの詩はよく見かける。こういった詩は意味性や韻律で勝負するのではなく、作者が仕掛けた言葉の遊具と読者が戯れて「ちょっと面白いね」と言ってくれるためにある。そして、ハイクという俳諧詩の観点で考えた場合、認識の瞬間、つまり読者がハッとなる瞬間さえあれば その要因が意味性である必要はない。韻律の面白さでも、ただの文字遊びでもよいと思う。

作者はウリ科トウガン連の果実には目がなく、それに属する西瓜、胡瓜、冬瓜は調理法さえ間違わなければ毎食出されても飽きない。冬瓜の調理法は、世界的に見て実に多種多様である。多くの国では色々な味付けの煮物やスープにされる。ベトナムでは冬瓜はビー・ダオと呼ばれ、豚のリブと一緒に煮込まれたりする。日本でも家庭では煮物やスープにされる場合が多く(堀田家には二種類の冬瓜汁が伝わる)、料理屋などでは、あんかけ、酢の物、蒸し物などにもされる。中国では、炒め物にされたり、中をくりぬいて冬瓜そのものを器にした具材豊富なスープ料理にされたりする。月餅の餡に使われたり、砂糖漬けの冬瓜飴にされたりもする。中国南方、台湾、香港や東南アジア諸国では、砂糖で煮込まれて甘い冬瓜茶として庶民に愛飲されている(アイスのは、スーパーやコンビニでペットボトルや缶で売られている)。フィリピンではコンドル(ゴンドル)と呼ばれるが、甘く煮詰められ、ホピアというフィリピン風の好餅(堅めの餡パンないし饅頭のようなもの)の餡として使われたり、スープや炒め物にされたりする。南インドではカレーの具材になる。

作者は、一度だけ冬瓜でグラニテを作ってみたことがある。基本的には西瓜のグラニテと同じ方法で作ったのだが、やや青臭いことと素材の甘みがあまりないことがネックで、蜂蜜やリキュールの調合が大変だった記憶がある。なかなか「大人の味」のグラニテに仕上がったが、二度と作る気はない。最近のお気に入りのいただき方は、冬瓜露(棗風味の冬瓜スープ)という香港風デザートスープにすること。作り方は簡単で、『ミセス・デイジーの香港スイーツ』のレシピだと、まず乾燥した南棗(種を除いてから洗っておく)50g、水250ml、氷砂糖40gを鍋に入れ、煮立ったらそのまま15分置いておき、棗以外を濾して汁だけを抽出する。そして、皮、綿、種を除いて2~3cm大に切った冬瓜320gを約10分蒸し器で蒸し、最後にその冬瓜を水分ごと前述の汁と合せてミキサーで撹拌し、滑らかになったら冷蔵庫で冷やす。作者案だが、蒸すのが面倒な場合は、前述の汁に冬瓜を入れて再度煮込み、それをミキサーで撹拌する方法もあると思う。漢方的には暑気払いと滋養強壮に効果があるとのことで、今の季節に最適。