露の夜『一千一秒物語』
まず、書架から取り出したのは、稲垣足穂(1900~1977)の『一千一秒物語』(1923年刊)の文庫(新潮文庫)。
この本を最初に読んだのは、たしか18歳前後の頃だったはず。
一応小説なのであるが、ごく短い内容のものが、合計70篇収められている。
稲垣足穂は、神戸育ちの作家で、この作品が刊行されたのは、作者がまだ23歳の頃とのこと。
やはり当時の港町のモダニズム文化がそのままに反映されているといった趣きが強い。
徹頭徹尾和文脈から外れた「架空のテーマパーク」ともいうべき「完全な作り物」の世界で、本人曰く「一種の文学的絶縁とニヒリズム」とのこと。
月や星が頻出するのは、アンデルセンの童話からの影響だろうか。
ともあれ、当時の自分は、こういった「短さ」に、非常に強い関心を寄せていたようである。
極端に限定された言語空間内部においてなら、極めて高密度な作品世界の達成が可能なのではないか、という期待を抱いていたのであろう。
こういった指向性は、やがて詩歌へと向かい、さらに短詩型へと照準の定められる結果となってゆく。
しかしながら、『一千一秒物語』の作品のいくつかは、殆ど詩作品そのものといっていいであろう。
よく考えてみれば、そもそも詩と小説の境界線というものは、果たして明確に存在するものなのであろうか。
思えば、詩歌であれ、小説であれ、つまるところ一切は言葉によって構成されている、ということになるわけであるが。