月天心『郷愁の詩人 与謝蕪村』
次に書架より取り出したのは、萩原朔太郎(1886~1942)の『郷愁の詩人 与謝蕪村』。
岩波文庫版のもので、僅か150頁程の薄さ。
本書の親本が刊行されたのは、1936年とのことである。
この本も、はじめて手に取ったのは18歳前後だったはず。
思えば、俳句をはじめる以前において、こういった本を読んでいたわけである。
蕪村の句に興趣をおぼえ、何度か目を通した記憶があるが、当時はこれらの句を前にしても、自らとの関連性をあまり強く見出せなかったのか、とくに俳句をはじめようという気にはならなかったようである。
本書の内容は、蕪村論と蕪村の句を引用しての鑑賞が主で、「附録」として短いものながら芭蕉の作品の解説も収録されている。
個人的に、当時、蕪村の作品で、最も心を動かされたのは、「北寿老仙をいたむ」だったという記憶がある(『郷愁の詩人 与謝蕪村』には部分的な引用のみ)。
これは、1745年、蕪村が30歳の時に書かれたもので、発句ではなく詩作品を思わせる全18行からなる抒情的な作品で、当時の時代を考えると随分と驚いてしまうところがある。
しかしながら、発句ではなく、このようなかたちを選んだのは、一体なぜなのか。
自らの心情を表出するためには、こういった叙法を採ることがどうしても必要だったのであろうか。
詳しい部分までは推測する他ないが、蕪村には、他にも漢詩と発句を交えた「春風馬堤曲」もあり、必ずしも形式内にとどまっているのみの作者というわけではなかったようである。